呼吸の生理学

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10.呼吸調節

自律的調系(involuntary control system): 

吸息、呼息というリズミカルな呼吸運動は延髄を中心とする呼吸中枢(respiratory center)によってコントロールされている。呼吸中枢には呼息時、吸息時に興奮するそれぞれ呼息ニューロン、吸息ニューロン群が存在している。この延髄のニューロン群の活動は、その上部の橋に存在する呼吸調節中枢(respiratory control center)の修飾を受ける。橋の障害は、呼吸回数の減少、1回呼吸気量の増大を引き起こすことから、呼吸調節中枢は吸息と呼息の切り替えを調節していると考えられている。また、自律的な呼吸運動は次に述べる末梢の伸展受容器 (strech receptor)、化学受容器 (chemoreceptor) からの求心入力の修飾を受ける。

随意的調節系(voluntary control system):

 大脳皮質も、延髄の呼吸中枢に存在する呼吸筋運動ニューロンにインパルスを送っている。我々が日常よく行う深呼吸や、話たり笑ったりする時に呼吸が変化するのもこの調節系による。

末梢受容器からの求心性入力

肺の伸展受容器

 延髄の呼吸中枢は気道および肺の伸展受容器からの迷走神経の入力を受けている。肺が伸展すると求心性迷走神経が興奮し、これは吸息性神経の活動を抑制する。これをヘーリング・ブロイエル反射(Hering-Breuer reflex) という。

化学受容器:

 動脈血中のPO2、PCO2、pHの変化は頚動脈小体(carotic body)、大動脈小体(aortic body)によって感知され、求心性神経によって呼吸中枢に入力されている。また、呼吸中枢の近くの延髄腹側表面に存在する延髄化学受容器(chemoreceptors in medulla)では、脳脊髄液や脳組織中のpHを感知し、その変化を呼吸中枢に入力している。PO2の低下、PCO2の上昇、pHの低下は肺胞換気量を増大させ、その結果これらの値は一定に保たれている。

 肺胞中のPO2、PCO2 は健康人ではほぼ動脈血中のそれぞれの値を反映していると考えてよい。PCO2は通常40mmHgだが、それがわずかでも上昇するとそれに比例して呼吸気量が増加する。それに対しPO2は通常100mmHgだが、それが60 mmHg以下に低下して初めて呼吸気量が上昇する。すなわち、呼吸調節はPCO2の変化に非常に鋭敏であるが、PO2の変化に対しては、ある程度分圧が低下するまではほとんど変化しない。

動脈血中PO2、PCO2 変化に対する換気応答の違いが意味すること

 息を止めると苦しくなるのは何故か。息を意識的に止められる時間は個人差もあるが、30秒から1分間程度である。この際、動脈血中のPO2はほとんど変化していない。すなわち、息を止めた際、私達が通常息苦しさを感じるのは動脈血中のPCO2の増加が呼吸中枢を刺激することによる。一方、PO2の変化に対し換気応答が鈍いのは、ヘモグロビン酸素飽和曲線からわかるように、PO2が多少低下しても血中の酸素濃度が変化しないことによる。言い換えれば、化学受容器は血中のPO2ではなく酸素濃度をモニターしていると言える。しかし、PO2が60mmHg以下に低下するような状況、例えば我が国では富士山のような3200m以上の高山に登ると、急に強い”息苦しさ”を体験し、息を止められる時間も急激に短縮する。