呼吸の生理学

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11.運動と呼吸

運動時の呼吸調節

 最大運動時には呼吸気量は毎分80~120に増加する。しかし、この呼吸気量の増加は、化学受容器反射では説明できない。すなわち、運動時には動脈血中のPO2、PCO2 は大きい呼吸気量を説明できるほど変化していないのである。運動開始直後から急激に呼吸気量が増加し、その後ゆっくり増加し、その後プラトーに達する、いわゆる3相性の変化を示す。この運動時の急激な呼吸気量が上昇するメカニズムについては、大脳皮質運動野から遠心性にインパルスによって呼吸中枢が刺激されるという説、また運動にともなって筋肉内の伸展受容器が伸展されたり、また筋肉内代謝物質が筋肉内の化学受容器を刺激し、これらが求心性のインパルスとなって呼吸中枢を刺激するいう説などが提唱されているが、まだよくわかっていない。

 最大運動強度の約60%以上の運動強度で、動脈血中のpHおよびHCO3- が急激に低下し、それと同期して呼吸気量および肺からの炭酸ガス排泄量の急激な増加が観察される。これは活動筋内で嫌気的解糖が亢進し、急激に乳酸(lactate)が蓄積したからである。これを乳酸閾値(lactate threshold)という。その結果、H+イオン濃度が上昇し、CO2 + H2O  H2CO3  H+ + HCO3- の平衡式が左方に移動し、HCO3- の低下と血中で過剰に産生されたCO2 が肺から排泄される。これは酸塩基平衡の中でも呼吸性代償(respiratory compensation)と呼ばれるものである。呼吸気量の急激な亢進のメカニズムに関しては、最近まで血中pH低下に起因すると言われていたが、先天代謝異常で乳酸が産生できない人でも同様に一定レベルの運動強度で呼吸気量の増加がおきることから、呼吸中枢に対する大脳皮質運動野からの遠心性インパルスや筋肉内の伸展受容器、化学受容器からの求心性インパルスの関与が考えられている。この運動時の呼吸の急激な変化は換気閾値(ventiration threshold)と呼ばれ、好気的運動能が高い人ほどこの閾値が高運動強度側に移動する。

持久性運動トレーニングと最大酸素摂取量:

 単位時間当たりの酸素を最大限どの程度摂取できるかを最大酸素摂取量(maximal oxygen consumption rate)といい、持久性運動能の指標となる。運動習慣のない成人男性では毎分 2程度であるが、持久性競技のトップアスリートになると毎分 5にもなる。肺活量が多い人が必ずしも最大酸素摂取量が多いわけではない。運動時の最大呼吸気量は一般成人男性で毎分120といわれており、これは運動しないで意識的に呼吸をして得られる毎分の最大呼吸気量170よりはるかに小さい。持久性トレーニングは、肺容量、肺活量を増加させるより、むしろあらかじめそなわっている予備換気能力を運動時に動員することを可能にした結果と考えられている。その結果、持久性のトップアスリートでは運動時の最大呼吸気量は毎分200にもなる。

 持久性トレーニングは肺におけるガスの拡散能を改善する。これは最大心拍出量の上昇と相まって肺における血液の酸素化を亢進するに役立つ。一方、筋肉組織においては単位筋組織における毛細血管やミトコンドリアの密度が増加し、酸素を利用してATPを合成するという、いわゆる好気的リン酸化(aerobic phosphoryration)の能力が改善される。筋肉組織における酸素消費速度の亢進は組織の酸素分圧を低下させ、毛細血管から組織への酸素の拡散を容易にする。その結果、混合静脈血中の酸素含有量が低下し動脈血酸素含有量との差、動静脈酸素格差(arterial-venous oxygen difference))が増加する。

 以上、呼吸器系や循環器系の改善や筋組織での酸素抽出速度の上昇の結果、最大酸素摂取量の増加がおきる。