運動とエネルギー代謝

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2.運動中に使用されるエネルギー源

2-1) 炭水化物 (carbohydlate)

 体内のグリコーゲンの蓄積は、体重70 kgのアスリートで肝臓に100g、全身の骨格筋に500gと圧倒的に骨格筋で多い。肝臓のグリコーゲンは主として、血中グルコース濃度を一定(約5mM )に維持するために用いられ、一昼夜の絶食でほぼ枯渇する量である。したがって、運動時に使用されるグリコーゲンは、そのほとんどが骨格筋に蓄積されているものだが、運動時には血液中からも一部のグルコースが活動筋細胞内に輸送される。その量は、筋全体の炭水化物消費量の20%に相当する。その結果、運動時には骨格筋のみならず肝臓でのグリコーゲン分解が亢進する。運動中に肝臓のグリコーゲン分解を亢進するのは、交感神経活動(sympathetic nervous activity, SNA)の上昇、血中のアドレナリン(adrenaline)、グルカゴン(glucagon) 濃度 の増加によるとされてきたが、最近、活動筋細胞内のグルコース濃度の低下によって、筋細胞自体から血中へ分泌されるインターロイキン6(Interleukin 6, IL6) も肝臓にフィードバック的に働き、グリコーゲン分解に関与することが明らかとなった。 いずれにせよ、血中グルコース濃度は、肝臓でのグリコーゲン分解と筋への取り込み速度で決定されるが、それが安静時の60%程度にまで低下すると脳へのエネルギー供給に支障を来たし運動継続が困難となる。

図5. 運動時のインターロイキン6の役割
運動筋から分泌されるインターロイキン6は、脂肪組織においては脂肪分解、においては肝臓においてはグリコーゲン分解、血管においては脂質沈着を防止する。
(Nose H. et al., Exrercise, Nutrition, Environmental Stress, vol. 4, Cooper Publishing, Traverse City, MI, 2005.)

 運動時の血中グルコースの細胞内への取り込みは、細胞膜表面にあるグルコース輸送体(glucose transporter, GLUT)による促通拡散が関与する。この輸送体には5種類のアイソフォーム(GLUT-1〜5)が存在するが、骨格筋の膜表面にあるのはGLUT-4 で、インシュリン(insulin) によって誘導される点で他のGLUTとは異なる。さらに、最近、GLUT-4の誘導にはインシュリンとは独立に、運動それ自体の刺激が関与することが明らかとなった。運動開始後、数分間で筋表面のGLUT-4 のタンパク量が増加しはじめ、運動の継続時間とともに増加し続ける。運動回復時には、炭水化物摂取によって多くのインシュリンが分泌されるが、それによって筋細胞膜上にさらにGLUT-4が発現し、骨格筋へのグルコースの取り込みが促進し、筋肉内グリコーゲンの早期回復に寄与する。このことが運動直後のグルコース補給の有用性の科学的根拠となっている。

2-2) 脂肪 (fat)

 体内の脂肪は、90,000 から100,000 kcal で全貯蓄エネルギーの70 ~ 80% に相当し、そのほとんどがトリグリセライド (triglyceride、TG) として脂肪組織に存在する。一方、骨格筋の筋線維間に存在するTG (intramuscular TG, IMTG) は、全体内脂肪の2~3% に過ぎない。 このようにIMTGの量は少ないが、筋収縮時の血液を経由しないエネルギーの直接供給源として重要で、65% VO2max 以上の強度での運動時には脂肪によるエネルギー供給量の50% を占める。

 運動時の脂肪の分解(TG → fatty acid + glycerol)は、脂肪細胞表面に存在するホルモン感受性リパーゼ (hormone sensitive lipase) が、血中のアドレナリン、グルカゴンによって活性化されて進行する。分解産生された脂肪酸はそのほとんどが血中アルブミンと結合し、わずか0.01% が遊離脂肪酸(free fatty acid, FFA)となる。このFFAの一部は、活動筋に促通拡散によって移動し酸化されるが、その総消費エネルギーに対する比率は運動強度の増加につれて減少し、例えば25% VO2maxで86%、65% VO2maxで30%、80% VO2maxで13% という報告がある。 運動強度の上昇に比例したFFAの利用率の減少の原因について、体外からFFAを投与しその血中濃度を上昇させることによって、高運動強度でのFFAの利用速度の低下を防止できることから、活動筋内のFFA代謝が低下するのではなく、脂肪組織における脂肪の分解速度が活動筋での需要に追いつけないためである。したがって、運動中にカフェイン(cafeine)などを摂取し脂肪分解を促進させて血中のFFA濃度を上昇させれば、活動筋でのエネルギー源が脂肪に傾き、グリコーゲン消費を節約することによって持久性パフォーマンスが上昇する。しかし、競技に先だって慢性に高脂肪食を摂取していてもその効果はないとされる。

2-3) 蛋白質 (protein)

 運動時の炭水化物、脂肪代謝の意義に比べ、蛋白質代謝の重要性は最近まで重要視されていなかった。従来、運動時の蛋白質代謝は、摂取食物と尿中に排泄される窒素平衡 (nitrogen balance) から論じられてきた。米国では通常の蛋白質摂取推奨値である0.8g/ kg (体重)/日、あるいは、我が国では30g/ kg(体重)/ 1000kcal / 日、以上の蛋白質を運動時にあえて摂取することを推奨してはいない。しかし、最近、運動時の蛋白質の異化は体内のグリコーゲン量の欠乏量に比例すること、また、その際、産生される窒素は尿中だけではなく、汗中にも大量に排泄されることが知られている。さらに、最近、トレーサー実験から、従来の方法の測定精度に問題があるとの報告もある。このように、運動トレーニング中に、食事の蛋白質摂取量を増加させるか否かについて、炭水化物の摂取状態、運動の強度と継続時間、窒素平衡の測定方法など、解決すべき問題点が多い。

蛋白質サプリメント(protein supplement):

 蛋白質の摂取タイミングに関して、大量を数少ない頻度で摂取するより、運動直後に少量を頻回に摂取する方が効果があるとされる。その根拠は、運動直後には筋血流が増加し、筋細胞のインシュリン感受性が上昇し、グルコースの取り込みが亢進しているためとされる。この状態で、蛋白質と炭水化物補給を同時に行うと筋肉内へのアミノ酸取り込みも亢進し、蛋白質合成も加速され筋肥大が起こりやすいという。

 さらに、最近、持久性運動時の側鎖アミノ酸 (branched chain amino acid) (ロイシン、イソロイシン、バリンなど)補給の抗疲労効果が注目されている。運動時の中枢性疲労 (central fatigue)の発生機構の一つとして、脳内のセロトニン(serotonine)濃度が上昇するためとされている。脳内のセロトニン生成の基質であるトリプトファン(tryptophan) は、側鎖アミノ酸と血液脳関門上の同じアミノ酸輸送体を使用するために、運動強度、継続時間が上昇によってアミノ酸がエネルギー基質として使用されて血液中側鎖アミノ酸濃度が低下すると、トリプトファンの脳内輸送が亢進して脳内のセロトニン濃度が増加する。したがって、側鎖アミノ酸補給はこれを防止するとされる。