加齢、性差、環境の影響

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3.環境の影響

3-1) 低酸素環境

  最大酸素摂取量は、高度が3,000m までは、さほど顕著に変化しないが、それ以上の高度では1,000m 上昇するごとに、ほぼ5ml/ 分/ kg (体重)づつ低下する。例えば、海抜0 m で60m/ 分/ kgであったものが、富士山頂(3774m) では、40ml/ 分/ kg、さらにエベレスト山頂 (8,847m) では15ml/ 分/ kg となる。この高度によって最大酸素摂取量が低下するのは、主として低酸素によって動脈血酸素含有量が減少するためである。

図4. 最大酸素摂取量への高度の影響
吸気中酸素分圧(PIO2)が120mmHg付近が海抜0m、60mmHg付近が海抜4000m、30mmHg付近が、8845m。
(West JB et al.High altitude and Man,Am.Physiol.Soc. 1984.)

  さらに、高地では乳酸閾値の低下がおきる。例えば、海抜0mで酸素消費量にして47ml/ 分/ kg(体重)の乳酸閾値は、海抜3,200m では32 ml/ 分/ kg となる。しかし、相対運動強度で表すと、それぞれの高度の最大酸素摂取量の60%と高度に関係なくほぼ一定である。 この乳酸閾値の低下の直接的原因としては、一定運動強度における血中アドレナリン濃度が上昇し、このβ作用によって活動筋内のグリコーゲン分解が促進されるためとされる。また、海抜3,000m 以上の高地では、平地とは異なり、低酸素性刺激によって呼吸気量が駆動されるので、安静時でさえ呼吸性アルカローシスとなり、代償性に血漿の重炭酸イオンの量が減少している。この状態で、運動によって血中乳酸濃度が上昇すると代謝性アシドーシスに陥り易くなる。

図5. 乳酸閾値への高度の影響
○は海抜3200m、●は海抜0mをあらわす。海抜3000m高度では乳酸閾値が低下するが(右図)、その高度での最大酸素摂取量の%でプロットすると(左図)、ほぼ重なる。
(Takamata A et al., Am. J. Physiol., 279:R161-R168,2000.

高地トレーニング:

 高地における持久性トレーニングが、平地よりも好気的運動能を増加させるということから古くからトップアスリートを対象に実施されてきた。その生理学的根拠としては、赤血球体積の増大によって動脈血酸素含有量が増加すること、さらに骨格筋組織における毛細血管密度、酸化酵素活性の増加による末梢酸素抽出速度が増大する。その結果、乳酸閾値の上昇、準最大負荷の運動持続時間の延長が得られる。これらの効果は、低酸素曝露後数週間で現れるが、その機構のひとつに、近年明らかになった細胞膜上に存在する酸素受容器およびその下流に存在する細胞内情報伝達機構がある。例えば、腎臓から分泌されるエリスロポエチン (Erythropoetin: EPO) は、低酸素曝露時の赤血球増殖因子であるが、この遺伝子のエンハンサー(enhancer) 部位に低酸素誘導因子1(hypoxic inducible factor 1: HIF-1)が結合してEPOの合成が開始される。HIF-1は細胞内の酸素分圧が上昇すると分解され、EPO合成 が停止する。さらに、このHIF-1は、血管内皮増殖因子(vascular endothelial growth factor: VEGF)の合成も刺激し、VEGFは組織での血管新生を促進する。

  このように高地トレーニングは、好気的運動能を改善するのに一連の効果があるが、最大酸素摂取量に関して言えば、平地でのトレーニング以上の効果は期待できない、という考えが有力である。その主な原因は、最大心拍出量が増加しないことである。すなわち、高地トレーニングでは平地でのトレーニングと異なり血漿量が低下し、たとえ赤血球体積が増加しても血液量としてはむしろ低下する傾向がある。また、高地では平地に比べ運動強度を低下させてトレーニングを行なわねばならないが、それがトレーニング効果を減弱させる可能性もある。そこで、通常の生活は高地で行い、トレーニングは平地で行うというliving high training low の新しい方法が最近提唱されている。しかし、高地トレーニングの効果についてはEPOの反応性だけからみても個人差が著しく、誰にでも効果があるわけではない。むしろ有害になる場合もある。

3-2) 暑熱環境

  暑熱環境下での運動時には皮膚血流と筋血流の競合が起きる。皮膚血流は涼環境下では体全体でせいぜい500 ml/分に過ぎないが、暑熱環境下ではトップアスリートで、3~5 / 分に及ぶ。この場合、最大心拍出量が25 ~ 30 / 分 であるとすると、この皮膚血流の上昇は最大心拍出量の10〜20% に相当し、その分、運動時の筋血流との競合を引き起こす。その結果、筋血流維持のために皮膚血流が抑制され体熱放散が減少し、核心温度 (core temperature) の急激な上昇を引き起こす。これが暑熱環境下での運動継続の制限因子となる。運動継続が可能な最高核心温度は食道温で40.5℃付近である。

図6.

 暑熱環境下で運動を継続するためには、核心温度を上昇させないこと、に尽きる。運動時に皮膚血管拡張を抑制する因子としては、脱水による血液量の減少、血漿浸透圧の上昇がある。一方、発汗は血液量の減少には影響をあまり受けず、血漿浸透圧の上昇によって抑制される。したがって、運動中に適当な経口補液によって血液量の減少、血漿浸透圧の上昇を抑制することは運動継続のために重要である。

 いわゆるスポーツドリンクとして利用されている経口補液の目指す条件としては、胃排泄速度 (gastric emptying rate) が速いこと、腸管での吸収速度が速いこと、血液量の回復速度が速いこと、の3点に主眼をおいて成分が決定されている。その結果、現在0.1〜0.2% の食塩水に数%のグルコースを添加したものが主流となっている。その他、暑熱環境下では一定強度の運動時に血漿アドレナリン濃度が増加し、そのβ作用によって活動筋のグリコーゲンが枯渇し易いことから、出来るだけ多量のグルコースを運動中に補給することを推奨する研究者もいる。