遺伝疫学の基礎, メンデル遺伝と多因子遺伝

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3.メンデル遺伝病

 まずメンデル遺伝病ですが、単一遺伝子疾患とも言い、例の「メンデルの法則」で有名な学者の名前を採ったものです。人の体は約二万個の遺伝子で作られています。メンデル遺伝病には三つあり、常染色体優性、常染色体劣性、そしてX連鎖性に分かれます。

3−1.メンデル遺伝病(1)  優位性遺伝病

 優性遺伝病は数千種類ぐらいと沢山ありますが、それぞれの頻度は非常に少ないのです。最も多いのはフォンレックリングハウゼン病で三千人に一人の割合。結節性硬化症、無軟骨形成症などもそうです。劣性遺伝病はフェニールケトン尿症など、ほとんどの先天代謝異常症がこれに入ります。X連鎖性は男の子しかならない血友病やドゥシャンヌ型筋ジストロフィー症などがこれに入ります。

 人はお父さん、お母さんから一個ずつ遺伝子をもらいます。正常な遺伝子を白丸、病気の遺伝子を黒丸とし、健康な人の遺伝子を白丸二個の組み合わせで表すと、黒丸が一個でも病気になるのが優性遺伝病です。これに対して、劣性遺伝病の場合は黒丸一個では病気にはなりませんが保因者になり、黒丸二個で初めて病気になるのを言います。

優性遺伝病の原則(図5)はどうかと言いますと、子供には配偶子と呼ぶお父さんの精子、お母さんの卵子を通じて遺伝子が伝わります。両親のどちらかが病気の時、健康な親は白丸を二個、病気の親は白黒を一個ずつ持っています。この両親が子供を生む時は、それぞれが二個のうち一個を伝えるわけですから、子供に黒丸の伝わる確率は五○%。すなわち、病気の親から病気の子供が生まれる確率は半分ということになります。


図5.

 ところが、両親とも正常なら、優性遺伝病の子供は生まれないかというと、必ずしもそうではありません。頻度は少ないのですが、突然変異(図6)というのがあるからです。突然変異は精子や卵子が作られるときに起こりやすく、放射線、抗ガン剤などの化学物質が原因になることははっきりしているものの、ほとんどの場合はまだわかっていません。ある一定の比率で、自然に起こるものなのです。


図6.

 この突然変異率ですが、最も頻度の高いのはフォンレックリングハウゼン病で、一万分の一。しかし、逆に言うと男性の精子は何億個とあるわけですから、だれでも一万個に一個ぐらいの異常な精子を持っているということなのです。異常な精子が授精するかしないか、が問題なのです。女性にしても数百万個の卵子を持っており、百個かそれくらいは異常な卵子を持っているのです。

 突然変異は、お父さんの年齢が高くなると出やすい、という統計があります。父親の年齢を二十二歳から四十七歳まで五段階に分け、突然変異による優性遺伝病の発生率(図7)を見ると、無軟骨形成症という病気の場合は、平均を一とすると年齢群が上がるにつれて四十四歳では二倍、四十七歳以上では三倍になっています。父親の精子というのは、遺伝子をコピーして日々新たに作られているので、何回もコピーしていると間違いが起こりやすくなるのです。


図7.